オカメインコの馴らしについて(荒から手乗りへの馴らしを経験して)

”はじめに”

先ずお断りして置かなければなりませんが、私自身、こんな大それた題の文章を書く程経験が長い訳ではありません。

ただ、オカメインコの馴らし方についての記載は、出版された本やホームページにも、意外と少ない感じがします。

私自身、未だ数は少ないのですが、一般に”荒”と言われるオカメインコを馴らした経験を通して、オカメインコの習性やその性格等について随分教えられたような気がします。

こうして学んだ事の一部でも、これからオカメインコを飼おうと思っている方や、飼い方に悩んでいたり、困っている方に、少しでもお役に立てればと思います。

一般に手乗りオカメというと、孵化後2~3週間で親から離され、人間による挿し餌によって育てられるようです。

しかし欧米の数冊の本を読んだ印象では、親鳥だけに育てられて一人餌になった若鳥が、一般の家庭で馴らされ、ペットとして飼育されているケースが少なくないようです。

”色変わりオカメインコに魅かれて”

私とオカメインコと付き合いは、かれこれ約10年になります。

手乗りの2羽のルチノーを娘の希望で手に入れ、その後、娘が飽きてしまったため、世話を引き継ぐことになったのが最初の出会いです。

しかし、オカメインコにルチノーとノーマルがいる事くらいの知識はありましが、それ以外は、飼育書の類を本気になって読むこともなく、毎朝、ケージから出して朝食を共にする仲間として、お互いに空気のような存在で8年間ほど過ごして来ました。

私が実際にオカメインコという種について興味を持ち出したのは、2000年の暮からでした。

その発端は、2羽のルチノーがいつまで生きるのだろうかという素朴な疑問からでした。

その頃の私の手持ちの本(鳥類全般の飼育書)には、ハッキリした記載は無く、セキセイインコが6年か8年位は生きるという程度のものでした。

そうすると、この2羽も、もうすぐ寿命になるのではという事になります。

そんな話をしていた時、家の奥さんが、突然心配しだしたのです。

犬にしても、鳥にしても、飼っていた動物が病気になったり、亡くなったりした時の私の落ち込み様はよほど凄いらしく、その姿を見てはいられないと思ったのだそうです。

そこで、一日でも早く若いインコを購入しなくてはと考えたようです。

その頃の私は、パソコンにもインターネットにも、全く興味がありませんでした。

家の奥さんはインターネットを始めたばかりで、その知識によると、ショップで購入した若鳥には病気を持っている事があり、直接ブリーダーさんから購入した方が良いと言うのです。

いつの間にか、私も、オカメインコを繁殖している方のホームページを渡り歩く日々が始まりました。

こうして、オカメインコの習性や、飼い方、そして色変わりの種類の多さを知る事になったのです。

やがて、色変わりオカメに魅かれ、インターネットで知り合った方々にお世話になりながら、実際にオカメさん探しが始まりました。

そんなある時、アメリカから輸入されたパステルフェースパイドに出会いました。

一目で、すっかり魅了されてしまいました。

ところが、この鳥は”荒”だったのです。

それまでオカメインコと言えば手乗りしか知りませんでしたので、”荒”というのがどんな物か、実感は全くありませんでした。

お店の御主人に風きり羽を切ってもらい、何とかなるだろうと家に持ち帰りました。

ところが、持ち帰ったその日にさっそく、手痛い洗礼を受けました。

入れてもらった箱から出してみると、部屋の中を飛び回り、捕まえようとしても、素早い動きで逃げ回ります。

やっと捕まえると、物凄い鳴声とともにガブッ噛み付かれました。これが痛いのなんのって、噛んだまま離そうとしません。

手乗りしか知らなかった私にとって、一種のカルチャーショックのようなものでした。

姿形から想像すると、色のトーンがソフトで、目の優しそうなオカメインコなのですが、臆病で気の優しい手乗りオカメのイメージからは程遠い、当に”荒”だったのです。

しばらくはケージに入れて、餌と水を替え、だだ眺めるだけでした。

私が近づけば恐怖と怒りの表情を表しますが、普段は目の焦点も定まらず、ただ無気力で無表情といった印象でした。

他の鳥達は、一日1回から2回は放鳥時間があって、家の中という限られたスペースとはいえ、自由に楽しそうに飛び回っていますが、この時も、彼は無表情に他の鳥達を目で追うだけでした。

ただ姿形に魅せられ、衝動買いをしてしまったものの、この鳥には可哀想な事をしてしまったと悔やまれました。

そんな反省の日々の中で、家の中で他の手乗りと一緒に飼っていくには、やはり手乗りとして馴らすことが、この鳥にとっても一番幸せなのではないだろうかという結論に達しました。

そして、オカメインコの馴らしへの挑戦が開始しました。

”初めての馴らし”

このパステルフェースは、ユパと名付けました。

ユパは、2001年4月孵化の♂でした。

私が手に入れたのが9月ですから、約5ヶ月の若鳥ということになります。

先ず、先達の記述を探すことから始めました。

しかし、馴らしに関して書いてある本は、なかなか見つかりません。

ホームページも探しましたが、系統立てて詳述したものは、なかなかありません。

そうこうしている内に、外国の本の中には、"taming"という項にけっこうなページ数を費やしている本があることが分かりました。

そこで、インターネットを使って"Cockatiel"についての本を数冊購入しました。

しかし、私の英語の読解力にしても、またオカメインコに対する知識量から言っても、あまり本格的な本では難しいと判断し、"A STEP BY STEP BOOK ABOUT TRAINING COCKATIELS. Elaine Radford" を参考にすることにしました。

彼女はこの本の中で、若鳥であれば、手に乗ったり、撫でてやれるようになるのに一週間はかからないと言い切っています。

どの位までの仔を若鳥というのかの記載は無かったのものの、私は突然気が強くなりました。

実際の方法については、許可を取った訳ではありませんから直訳は出来ませんが、私なりに要点をピックアップして、勝手にモディファイして書いていみます。

なるべく狭い部屋(トイレとかシャワールーム)を選び、暗めの灯りの下にケージごと鳥を運びます。

鳥が落ち着くまで、ケージの傍で本を読みながら待ちます。

落ち着いてきて、止まり木に止まったのを見計らって、ケージの外から、下調べしておいた好きな餌を指に挟んで、鳥の正面からではなく、横の方向から近づけて見ます。

食べてくれたら、ケージの扉を開いてケージに中で同様に、鳥の正面からではなく、鳥が片目でしっかり確認出来る位置から段々近づけていきます。

口を開いて威嚇してきても、バタバタ逃げ回らない限りゆっくりと、騒ぎそうな時はそこで止めて、途中で戻すことはせずに嘴のところまで持っていくと、威嚇しながら餌に噛みついてくれます。

こうなったら、やがて食べてくれるようになりますから、後は根気良く繰り返し、怖がらずに食べるようになるのを待ちます。

次に、人指し指を、やはり鳥の片目の方向から近づけて、足の付け根から胸にかけたあたりに持ってきます。

そこで、そっと指を上にずらして胸に触ると、びっくりして指に飛び乗ってきます。

この時、好きな餌を別の手に持つか、親指と人差し指で餌を摘んで中指から小指を少し曲げながら胸に押し付けていくと良い場合もあるようです。

しかし、すぐに降りてしまいますので、これを何回も繰り返していく内に、長く留まってくれるようになります。

そうしたら、指を少し揺らしたりして気をそらし、出来るだけ長く乗っているようにしておきます。

ただしこの本では、これらの訓練作業1セッション15分位で切り上げて、一時間程度の休みを置くようにするとしています(しかしこの休憩時間も、ケージの傍から離れないで待ちます)。

鳥は、それ以上長く集中する事は出来ないとしています。

私の経験では、興に乗って来たらもう少し長く、30分位は構わないと思っています。

10分位の間、指に乗せておけるようになったら、今度はケージの外に出してみます。

驚いて飛びますが、狭い空間ですので、床に降りるか、ケージの上に降りてきます。

そこで、またケージの中でやったように、指に乗せる動作を繰り返しますが、たいていは、指に乗る時間はどんどん延びてきます。

そうなったら、”梯子登り”(片方の手の人指し指から、もう片方の人指し指に、梯子段のようにだんだんと自分の頭の上くらいまで登らせていくのを繰り返す)のスピードを上げて行きます。

こうなれば、もう肩に乗せたり、カキカキをしたりしてあげられるようになります。

これらの動作を、もう少し広い部屋に移して行けば、手乗りオカメの誕生です。

さて、実際にユパに応用してみました。

先ずトイレは私にとっても居心地が悪いので、以前に子供が使っていた4畳半程度の狭い子供部屋にカーテンを引き回し、少し暗くした中にケージを持ち込み、おもむろにケージの扉を開き、粟穂を一房指に挟んで近づけて行きました。すると、あっという間に、扉と腕の隙間から逃げ出し、夜を待ってバスタオルの中に捕らえる羽目になってしまい、一日が過ぎました。

それから何日か、優しい声というので、裏声を使ったりしながら暗がりで格闘しましたが、一向に先に進みません。

結局あきらめて、他の手乗り達のいる部屋に戻しました。

ところが、隣にいた手乗りがヒマワリの種が好物でしたので、手で剥いてやりながらケージの外から食べさせていると、どうも、ユパも興味を示しているように見えたのです。これはと思い、剥いたヒマワリの種をケージの底板の端に載せておいて部屋を出ていましたところ、無くなっていました。

その日は、それを何回か繰り返して終わりとしました。

次の日は、私の見ている前で食べるようになっていました。

そして次の日は、ケージの外からなら指に挟んだヒマワリの種を食べてくれるようになったのです。

こうなると早いものです。数日の内には、手に乗って食べるようになり、ケージのそとに連れ出す事にも成功しました。

後は、前述の本のとおりに、梯子乗り、後頭部から耳の後ろのカキカキと、とんとん拍子に進んでいき、ヒマワリの種を食べ出して2週間後には、何かの拍子に驚いて飛び出してカーテンのレールに取り付いてしまっても、呼ぶと肩に降りて来るまでになっていました。

ビギナーズラックとはいえ、今では、他の挿餌で育った手乗り達よりも人間を信用しているように思えるくらいです。

ユパの場合に旨くいった要因としては、(1)孵化後5ヶ月と比較的若い鳥であった事 (2)ヒマワリの種という彼の無上の好物が偶然にも分かった事 (3)周りに、良く馴れた手乗りがいた事、などが挙げられると思います。

”上手くいかない事もある”

ユパの馴らしで自信を付けた私は、孵化後1年2ヶ月の♀(ホワイトフェース)の馴らしに挑戦してみました。

名前は、ジルとしました。

この仔は、ユパに比べると非常に臆病で、噛み付いたりはしないかわりに、ケージの中ですぐにパニックになってしまい、収拾がつかない状態になってしまいます。

また、周りに鳥がいたり、物音がしただけでも気が散れるタイプなので、とても相部屋での訓練は無理で、前述の子供部屋に一日2回(1回1時間)籠るという方法をとりました。

好物は粟穂で、他のシードには手を付けないくらいに徹底しています。

ですから、粟穂をちぎって近づくことで、何とか3週間で、ケージのなかでは手に乗ってくれる程度にはなりました。

しかし、これから先にはどうしても進みません。

ケージから出た途端にパニックになってしまい、ケージに戻すだけで訓練時間は終了ということの繰り返しでした。

しかし、5週間位でやっとケージからの出し入れが可能となりました。

その後もオドオドしながらも、手や肩に乗ってお外で遊ぶ程度にまではなりましたが、前述のユパと巣引きに入ってからは、輪をかけて臆病になり、子育てが終わるまでは放鳥出来ませんでした。

子育てもほぼ終わり、今は時々放鳥はしてあげますが、ケージに入れには相当の時間を覚悟しなければなりません。粟穂で釣って、手に乗せるのがやっとです。

ジルの場合は、馴らしが出来たとは到底言えません。

”ジルとユパの仔”

この夫婦は、お互いに初めての巣引きということもあってか、一回目に巣立ったのは1羽でした。

この時は、春も早かったので、1羽だけだと冷えてしまう恐れがあり、孵化後3週間足らずで挿餌に切り替えました。

この仔は挿餌で育ったので、文句無く手乗りで、全くのベタベタです。

もう孵化後3ヶ月になって、大部屋で仲間と一緒にいますが、鳥の後ろから胸に抱きかかえても、平気でカキカキに目を細めているのはこの仔くらいです。

するとジルとユパは、すぐに第2回目の巣引きに入ってしまいました。

この時は、何とか2羽の雛が育ってきましたし、気候も良かったので、子育てを親に全て任せました。

しかし、孵化後2週間を過ぎてから雛達は、毎日1回は巣箱から雛達を出して手に乗せて首や背中を撫でてやることにしました。

最近になって1羽は巣立ちましたが、挿餌は一切やりませんでした。

しかし、孵化後7週間、高いところに登っていても呼べば飛んで来る程度に、手乗りです。

今日は、2番目(1週間遅れて孵化)の飛行練習にユパと一緒に付き合いましたが、雛が私の膝の上から離陸すると、ユパが肩の上から少し送れて離陸し、雛の近くに着陸します。

すると、今度はユパが私の肩に飛んで戻ってきます。

雛は飛び立つのですが、私のところまでは飛び上がれず、途中からは歩いてよじ登ってきます。

それを何回繰り返したでしょうか、やっと飛んで来て、私の膝に噛り付きました。

こうして、ジルとユパの仔達は、最初の1羽は挿餌で、次の2羽は挿餌なしで手乗りになってくれました。

確かに、最初の仔と次の2羽に、同じ手乗りでも、馴れ方に差があることは認めざるを得ません。

最初の仔は全くベッタリで、何をされても信用しているという感じです。

しかし、後の2羽は、ジルと一緒の時は、私に対して警戒心を隠しません。

ユパと一緒の時は、カキカキも喜んでさせてくれます。

これから成長していくに従って、どう変化してくるかは興味のあるところです。

”2羽の若鳥、究極の馴らし”

最近、またも一目惚れで、2羽の”荒”を購入しました。

ベルギーから輸入された鳥ですが、今年孵化した若鳥です。

はっきりした孵化日は不明ですが、見たところは、もう孵化後5~6ヶ月は経っていいると思われます。

購入した時は、広い敷地内を群れを作って十数羽が飛んでいる状態でした。

そこから網で捕らえてもらい、家に連れて帰りました。

箱から出す時点で、強烈に噛まれました。3ヶ所から見事に出血させられました。

気が立っていて、ケージに近づいただけでも凄い声を出して大騒ぎで、約2日間は、粟穂も食べてくれませんでした。

仕方なく、なるべく他の鳥の鳴声も聞こえない部屋に隔離して、一週間は餌を換えるだけで様子を見ました。

最初は、ユパやジルの時と同様に、粟穂をちぎった物やヒマワリの種をケージの外から与えてみましたが、一向に食べる気配を見せません。

やがて一羽(ケチャと命名)は、指で摘んだ粟穂をなんとか食べるようにはなりましたが、それ以上は、なんとも進みません。

そこで、"COCKATEILS! ;Nancy A. Reed"では"taming by force"、"ENCYCLOPEDIA OF COCKATIELS ; George A. Smith"では"brain-washing"といわれても仕方が無いとも言える方法としている、第二の馴らし方を試すことにしました。

この方法では、先ず片方の風切羽根を切ることから始めた方が良いとされています。

そこで、気が強く、どうやっても手から餌をてべてくれなかった一羽(クイ)が、ケージから逃げ出して、どうしても捕まえられないでいたところでしたので、暗くなるのを待ってレースのカーテンで捕らえました。

捕らえたまま、片方の一番外側の2枚の羽根を残して、風きり羽根を1/3程の長さに切り落としました。

翌日から、クイの訓練が開始されました。

今回は、絶対的に狭くて暗い部屋という事で、シャワールームの脱衣所を選びました。

床には足拭き用の大きなタオルが置いてありますので、落下しても痛くはなさそうです。

この中にケージごと持ち込み、おもむろにケージの扉を開きました。

ケージの奥の方で、斜に構えて威嚇しています。

そこに手を入れて、暴れまわるのを肩手で両翼を上から掴み、自分の胸に抱きかかえてしまいます。

この時、力を入れ過ぎると鳥の生命を奪う事になりかねませんから、呼吸が出来ていいるのを確認するためにも、噛まれるのは覚悟で、手袋をするのは止めた方が良いようです。

また、胸に抱きかかえることで、無駄な動きが抑えられ、強い力を必要としなくなります。

そこで、優しい声で安心させながら、もう片方の手でカキカキを繰り返します。

首の後ろ、頬の後ろと刺激していき、嘴の付け根から顎の下、目と嘴の間を愛撫出来るようになれば、一安心です。

そうなったら、ゆっくりと掴んだ手の力を緩めていくと、手の上に乗って来ます。

そのまま、首の後ろから後頭部にかけて愛撫を続けていると、しばらく手に乗ったままになります。

しかし、顎の下や嘴の付け根の愛撫に進むと、鳥が上を向き、慌てて飛び立ちます。

とは言え、狭い空間ですし、片翼の羽根が切ってあるため、すぐに落下します。

そうしたら、片方の手で上から覆うようにして逃げ場を隠すようにしながら、もう片方の手で水を掬い上げる様に手の甲に乗せて上に持ち上げるようにします。

そうすると、鳥はびっくりしたように、手に乗ったままになりますので、声をかけながら愛撫してあげます。

飛んでは掬いを何回か、繰り返す訳です。

この方法を用いる場合は、極度の緊張状態に鳥を追い込む事になりますから、1セッション15分という原則は守る必要があります。

15分経ったら、ケージに戻して1時間の休憩の後、これを繰り返しますが、クイの場合は1日1セッションでしたので、2日間(15分のセッションを2回)で梯子乗りから肩の上に乗せて歩ける状態までになりました。

ところが、元の子供部屋に戻すと、ケージの扉を開いても出てきません。

手を入れると、やはり逃げ回ります。

そこで、もう一度脱衣室に戻って、ケージへの出し入れの訓練を追加しました。

その後は、段々と広い部屋でも肩に乗せて歩けるか、梯子乗りをしたり手から肩に移したりと試していきますが、時々、音や鏡等に驚いて飛び立ちます。

3日も経つと、片方の羽根が切ってあっても飛び方を覚えてしまい、手の届かない高い所まで飛んで行く事が出来ます。

しかし、焦らず、しかもなるべく速やかに、踏み台を用意しておくなりして、手に戻すようにします。

そうしている内に馴らし開始約1週間くらいで、外に出るのが楽しいのか、ケージの扉を開いて、指を横にしてあげるだけで、指に飛び乗って来るようになります。

この訓練をとおしてのもう一つの発見は、クイの表情の変化です。

訓練前までは、人間には興味が無く、恐怖としか認識していなかったのが、外に出してくれて楽しましてくれる存在として写るらしく、私がケージに近づいただけで目で追い、扉の近くに寄って来るようになったのです。

ケチャに対しては、羽根は切らずに訓練を開始してみました。

方法は全く同様でしたが、もともとケージの中では指から粟穂を食べてくれるくらいでしたから、手に乗るようになるまでは、1セッション(15分)で充分でした。

しかし、広い部屋への移行は簡単ではありませんでした。

完全に飛行能力があることに加え、もともと臆病な性格でしたから、物事にすぐに驚き、飛び回ってしまいます。

また、ケージの扉を開けても、外に出るのが怖いのか、飛び出しては来ません。

出してあげてもすぐにケージの中に入ろうとしますし、扉を閉めてしまっても、ケージの屋根に止まって、中に入る方法を探ろうとする傾向があります。

しかし、表情はやはり訓練前とはすっかり変わりました。

出たい仕草はしないものの、傍によると、目で追うようになりましたし、外に連れ出してしまえば、けっこう楽しんでいるようです。

”挿餌で育った手乗りとの比較”

私のところには、同じ手乗りでも。人工孵化で完全に人間の手だけで育った手乗りと、孵化後2~3週間で巣から出して挿餌されて育った手乗りがいます。

また、ユパとジルの最初の仔のように、たった1羽のみで孵化後3週間から挿餌した手乗りもいます。

これらの手乗りになる過程による習性の比較に関しては、もう少し経験を積まないと結論は出せないと思います。

ただ、私の少ない経験での印象からすると、人工孵化で育った仔達は、全く人間を警戒しませんから、素直で、甘えん坊で、手乗りとしては最も可愛く、扱い易い仔達と言えます。

しかし、巣引きをするようになると、本能に目覚めるらしく、私に対しても攻撃するようになります。

確かに、人工孵化というと特殊な感じがしますが、巣立ちの年齢で鳥達の群れの中に返してやっている方の話では、一般の荒と同様に人間は警戒の対象になり、立派に巣引きをして子育てをするそうです。

次に挿餌をして育てた仔達ですが、育て方によっても随分違う印象があります。

兄弟が沢山いて、お互いに遊びながら育った場合や、他の多数の雛達と一緒に育った場合は、仲間同士で遊ぶ事が出来ることから、人間とは距離を置くことになるような気がします。

1羽だけで挿餌をして育てた場合は、人工孵化の仔に近い印象になるような感があります。

さて、これらの手乗りと、荒として育って来てから馴らされた仔には、将来どのような差が出来るのでしょうか?

とても興味深いところです。

勿論、鳥の性格といった個体差も大きいと思います。

また、人間との関わり合いによっても変わってくると思います。

先に述べたユパなどは、人工孵化で育った仔達と同じ位に、人間を信頼しています。

テトという人工孵化で育った♂がいますが、彼は彼の伴侶を守るためなら、人間を攻撃することを躊躇いません。

クイとケチャのような究極の馴らしは、一度、極度の恐怖を通り過ぎて強制的に手乗りにさせられる訳ですが、今の所、私の観察する限りでは、挿餌で育てられた手乗りとの差は感じられません。

しかし、成鳥になって伴侶を持った場合、多くの仲間達と一緒に放鳥してもらいながら群れとして飼われる場合、一羽あるいは2羽だけといった人間と非常に近い存在で飼われる場合といった、将来の様々な環境によっても、様々な反応を見せてくれるものと思われます。

”おわりに”

結局、どのような経過を辿ったにしても、手乗りとして飼うと決めたからには、人間が出来る限りの愛情を注ぎつつ、鳥の尊厳も認めてお互いに共存していくという、両者にとって最良の生き方を探っていく事が、我々に課せられた責任である事に変わりはないような気がします。

確かに、手乗りにする事自体、鳥の習性を捻じ曲げてしまう人間の傲慢さといった印象も拭えない事も事実ではあります。

しかし、人間の愛玩用として繁殖され、家の中といった限られた環境、しかも人間と同じ空間で生活する運命を背負わされてしまった鳥達の幸福を考えると、少なくとも終生に渡って人間を恐怖として捉えさせる事は避けなければいけないと思います。

人間の傲慢さという後ろめたさに悩まされながらも、数回の馴らしを経験し、益々鳥達に対する愛情が増してきているのを感じている今日この頃です。