ふと立ち止まって、自分が歩んできた道を振り返る。

そんなとき、多くの人が、ずいぶんいろんなところで、いろ

んな人からさまざまな恩恵を受けてきたものだ、というとい

う感懐(カンカエ)を抱くにちがいない。

人は、知らず知らずのうちに人々や世間から、物心両面にわ

たる幾多の借りを受けつつ、一人前に成長してもののようで

ある。その借りが、どれだけ返せているか。

借りたものは返すのが、人としての道であるけれど、実際に

はきわめてむずかしい。たとえば借金でも、元利合計を期日

までにそっくり返済したとしても、それは単に借りた金銭を

返したということだけのこと。

借りた時の自分の必要性や困窮を救ってもらったという借り

は、少しも返したわけでない。

お金はもとより、物でも精神的なものでも、人が暖かい協力

、後援、友情の印として貸してくれるものの根底には、ただ

借りを返しただけでは返しきれないなんらかの貴重な恩恵が

含まれているのである。

そんな心の貸借関係をも意識して、お互いに感謝の心、報恩

の心をどれだけ持ち会えるか。そこにも今の世の混迷を正す

一つの大事な要因があるのではなかろうか。